多層プリント基板に見るアース(グランド)実装の考え方の変化

要点

・1970年代に使われていたプリント基板(片面/両面)の部品実装法は、おそらく1990年代ころには表面実装基板になり、その実装方式や高周波特性は大きく進化し、従来の配線、実装法の常識はほとんど通用しないほどの長足の技術進歩があった。

 ・現在の多層プリント基板では、内層に静電容量が最大になるように+Vddパタンと、グランドパタンを大変薄い絶縁体層をはさんで向き合わせている。
 
・従来の片面基板では、電源のマイナス側のパタンを広くとると、高周波動作が安定化することが経験的に知られていて、その実装方法が取られた。
(同じ考え方で、両面基板でも、表面、裏面ともに、電源のマイナス側のグランド・パタンを広くとり、細い配線パタンをガードし、取り囲むようにできるだけ面積を広くとっていた。)
 
・その後、プラス電源端子側とマイナス電源端子側は、インピーダンス0Ωの電圧源を介してショートされており、さらに、電圧源にパイパスコンデンサを並列に接続するめ
高周波的は対等に対称的に等電位であることが知られるようになった。
 
このため、すでに多層基板では、内層に+Vddパタンと、グランドパタンを向き合わせて、基板全体を+とマイナスのベタグランド面で構成するのが当たり前にされるようになった。
 
・内層の+Vddパタン面と、グランドパタン面は、内層を通過させて、小型のチップ型
セラミックコンデンサを、最適な高周波バイパス特性が得られるように、通常、かなり多数に分散配置する。
この実装配線法は、従来の一点アースの考え方を一変させ、最短距離でチップセラコンを多点で、広い面積のグランドパタンに落とす、多点アースの実装法に変えた。
 
・表面実装多層基板が出る前は、片面プリント基板でのバイパスコンデンサは、広帯域の低い周波数から高い周波数まで、良好なバイパス効果をえるために、低い周波数は電界コンデンサ、高い周波数はセラミックコンデンサを並列に接続することが、回路動作を安定させる伝統的ノウハウとして、書籍にも長年よく紹介されてきていた。
・表面実装多層基板が出ると、こうした伝統的常識が通用しないものになっていった。
 
・さらに多層薄膜構造の1uFというような高周波特性の優れた電界コンデンサ並の大容量化したチップセラコンが開発され、利用されるようになり、従来のプリント基板実装の常識は、業界の製品では、ほぼ使えないものとなり、現在では使えない状況になってきている。
 
・多層基板では、表面、裏面にも、配線パタンをさけて、マイナス側かプラス側のベタパタンをできるだけ広くとり、ビアと呼ばれる多数の穴で表面のグランドと内装面のグランド面を最短で接続、裏面のグランドと内層面のグランド面を最短で接続する。
 
・さらに、ICの VCC端子とGND端子を最短距離になるようにIC実装も変って来た。
・小型チップセラコンが高周波バイパス特性が優れ多用されるようになった。
・こうした表面実装基板の考え方は、従来のディップ部品の基板より実装密度が高くなる、さらに高周波特性が優れるため、ディップ部品+従来型基板は主流ではなくなっていった。
 
他、多数のEMI防止の実装上の工夫がされるようになっている。
 
それに対し、こうしたノウハウは公知であるものも多いが、書籍化、教育が十分に行われていない印象をネット閲覧で見ることが頻繁にある。メーカ独自の非公開ノウハウも多い。
 
これに対し、従来の知識では、アースは最短距離で太い導線で、保安用のアースとして地面にアース棒を打ち込む、減極剤を地面に入れる、この程度の教育しか、少年向けラジオ誌には書かれていなかったことが既存の古い文献からわかり、その知識が、不運にもインターネットでそのまま広く拡散され受け継がれているのがわかってきた。
 
こうしたあまりにも古すぎる現代ではもはや役に立たなくなった知識をネットや書籍で拡散されると、技術文明発展に対し、大きな後退がおこるので、困ったことがおきていると思う。
 
この分野の成長は早いので、公開されたものは公開公報から知るくらいの新規技術を知る努力等も必要。時代に遅れをとり、距離が開くと、追いつけなくなる。
このようなことが起きているのを見ることが少なくない。